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高尾とが付き合い始めて一年が経過したある日。
のアパートに来ていた高尾は机の上に置いてあったの手帳を、何気なく手にとって中身を見ようとした時、
「あ―――!!ダメダメダメダメ―――――!!!」
とキッチンからお茶を入れて戻って来たが、凄まじい勢いで高尾の手からそれを取り上げた。
「あっ、ごめん。」
その様子に驚いた高尾は、素直に謝った。
「み、見た?」
は不安な眼差しを高尾に向けながら、質問をした。
「いや、見てねーけど・・・・・・」
未だに呆気にとられる高尾だったが、質問には答えた。
「そっかぁ・・・・・・。よかった・・・・・・」
高尾の答えを聞いたは、安堵の溜息を吐いた。
その様子を見た高尾が、何を思ったのか「見せて」と頼んできた。
「・・・・・・いやだ・・・・・・」
は一瞬怯みつつも、高尾の頼みを却下した。
「なんで?」
比較的明るめな声のトーンで聞き返す高尾。それに対しては「見せたくないから、見せたくない。それだけだよ」と言い、腕の中の物を強く握り締めた。しかしその言動がさらに怪しく見えた高尾は、食い下がってきた。
「ちょっと見せてくれるだけでいいから、見せてよ」
「いや、ぜっっったい、いや!」
「・・・・・・もしかして、オレに見られたらヤバイことでも書いてあんの?」
高尾らしくない不安気な表情でに問う。
「・・・・・・。そういうわけじゃぁ・・・・・・ないけど・・・・・・」
「見せたくない・・・・・・と?」
は静かに首を縦に振った。
「・・・・・・。そー言われると、余計気になる」
その瞬間、高尾の目が獲物を見つけた鷹の目つきに変わり、口元には不敵な笑みを浮かべる。
「なっ・・・・・・」
息を詰まらせるが半歩後ずさりした刹那、高尾が勢いよく立ち上がり、の腕の中にある物に手を伸ばしてきた。そのことに気づいたは高尾に背を向ける。すると高尾はの横腹をくすぐってきた。
「ちょっ、や、やめっ・・・・・・!」
「それ見せてくれたら、やめてもいいぜ」
高尾は口元をニヤつかせながら言った。
「やっ!だった、らっ・・・・・・」
半分笑いをこらえながらもは抵抗を続け、高尾はくすぐる手を止める気配を見せない。いつの間にか床にうずくまるような体制のの後ろから、横腹をくすぐっていたはずの高尾の手が、手帳に伸びてきてることに気がついたは、咄嗟に腕に力を入れる。
「ん~~~っ。ダメっ!」
「力比べなら、断然オレの方が有利だな。」
「―――っ!ヤダってばっ!」
最後の最後まで抵抗するに神様は味方をしてくれず、それが高尾の手に渡ってしまった。
「返して、返して、返してよっ!」
の腕の中から手帳を奪い取った高尾は、の低身長をいいことに、腕を高らかに上げ、手帳の中を見ようとしていた。それに対しては届かないと分かっていても抵抗せずにはいられず、腕を伸ばし飛び跳ね、必死に高尾の手からそれの奪還を試みるも、神様は味方してくれない。
結果、の抵抗虚しく、高尾が手帳をペラペラとめくり始めてしまった。
「あぁ~・・・・・・」
相当ショックだったのかは今にも泣き出しそうな顔をして、情けない声で項垂れた。
「ん~?普通にバイトとかの予定書いてあるだけじゃん。別に日記代わりに使ってるとか、そんなんじゃねーみてぇだし」
確かに、高尾に見られて困るようなことは書いてはいない。しかし見られたくないものは入っている。
それは高尾との初デートの時の写真。
その時はデジタルカメラは持っていなかったので、スマートフォンをカメラ機能で撮影したもの。
普通の女の子だったらその写真を待受画面に設定したり、電話着信画面に設定したりするだろう。しかしは形あるものが欲しかった。データというボタン一つで簡単に消えてなくなるものではなく、破けてしまってもまた修復できる形あるものが。しかしはその写真を部屋に飾るのは少し躊躇いがあったため、手帳に挟んで持ち歩いていた。
そんなことどころか、スマートフォンに入っているその写真を出力していたこと自体知らない高尾に、知られてしまえば、きっと笑われ、最悪の場合引かれるかもしれない。そんな思いがの中で渦巻いていた。
抵抗も虚しく、取られてしまった手帳を高尾は不思議そうに見ていたが、「あっ」と声を発し、が必死になって抵抗していた理由を発見した。
「これ、初デートん時の写真だよな・・・・・・?」
「・・・・・・そうです」
全く悪いことをしたわけではないのに、は改まった口調で答えた。
「もしかして、これ。見られたくなかったの?」
「・・・・・・そうです」
「・・・・・・」
流石に呆気にとられた高尾。言を継ぐ言葉が出てこない。
「・・・・・・。何で、部屋に飾んねーの?」
は項垂れてから答えた。
「恥ずかしいから」
「なんで?」
すかさず返す高尾。その速さに項垂れ息を詰まらせる。
「なんでって・・・・・・」
「時々、オレがここ来るか?」
は首を縦に振った。
すると高尾は手に持っている写真に視線を落とし、口を開いた。
「写真立てって、ある?」
「・・・・・・ない」
「なら今度、買いにいこーぜ。二人で」
「えっ」
それは思いもよらない言葉だった。高尾の方を見れず、床に視線を落としていたの視線が高尾の顔に釘付けになる。その視線に気がついたのか高尾が
「なんだよ」
少しばかり照れくさそうな声色で言葉を発した。
「その・・・・・・、笑われると思ってたから・・・・・・」
「・・・・・・笑うどころか、嬉しいっつーか。ニヤニヤするっつーかさ。・・・・・・オレこんな思われてんだな~って思って」
その時、高尾と視線があったは、恥ずかしさのあまりサッと目を逸してしまった。その数秒後、の左頬に柔らかい感触が伝わってきた。それがなんなのか確かめようと振り向くと、すぐ近くに高尾の顔があり、頬に接吻されたのだと気づいた刹那、顔の温度が急上昇するのをは感じた。すると高尾が急に息を吹き出し、
「、お前。顔真っ赤っ!」
と笑いだした。
それに対しては「笑わないでよ!」と片頬を膨らまし、反論した。
「いやだって、みるみるうちに赤くなってくんだもん。笑って当然だろ」
「~~~っ!いきなりする方が悪いっ!」
「したくなるような表情する方が悪ぃっつーの!」
「~~~もうっ!和成のバカっ!!」
宝石箱に隠したシトリン
2015.05.07 Thank you for reading.Writing by Lina.
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