クラスの女子から少女漫画を渡され読んでみると、今まで知らない世界というか、正直めちゃくちゃ面白い。
どの少女漫画を読んでも割と出てくる『当て馬くん』に、全く共感が持てなかった。
どうしても自分のモノにしたいと思いながら、好きな人の背中を押してしまう男子。
返す時にそんなことをこぼしてみれば、
「沢村なんにも分かってない!これだから恋愛初心者は!」
と一喝された。

「いやだって、まず好きな人が他にいる時点でその人のこと好きにならないだろ?」
そう言うと、意外な顔で見られた。
「沢村はまず気になる人に他に好きな人がいることすら気付かないんじゃない?」
「いやいやいや、それはさすがに気付くって!」
笑いながら言ったけど、まず自分が誰かを好きになってることすら想像つかなかった。

でも簡単に落ちるんだ、恋なんて。
漫画の世界だけじゃなくて、現実に。



                  ◆



昼休みに廊下を歩いていると、
「さーわーむーら!」
声を掛けられたと同時に、パコンとマヌケな音をたてて頭を軽く叩かれた。
後ろを振り向くと、丸めたプリントを片手に持った御幸一也がいた。
「どうしたんスか、1年の教室まで来て…」
言ってる途中で、横に知らない女子がいることに気付いた。
「お前、ヒッティングマーチの希望提出昨日までだったの忘れてたろ」
呆れた顔で言われて「あ!」と思い出した。
「夏と一緒で良いなら良いけど」
「じゃあ夏と一緒で!!」
「いちいち声でけーよ。…だってよ、手間かけて悪かったな」
そう言って御幸先輩が丸めていたプリントの束をその知らない女子に渡している。
「ううん、こっちこそタイトスケジュールでごめん」
誰だろう、と思って見ていると、バッチリ目が合った。
どんな顔をしたら良いのか分からないでいると、その人は笑って、
「決勝は応援行くから!頑張ってね、沢村くん!」
そう言って、じゃあね、と振り返った瞬間、なんか良いにおいがして、ドキリとした。


もと来た道を帰っていく後姿から目が離せないでいると、
「あれ、吹奏楽部の部長だから」
と御幸先輩が言った言葉に、ギクっとした。
「別に聞いてないっスよ!」
焦って返すと、
「お前が誰だアレって顔で見てるからだろ」
と言われて、またなんでか、ホッとした。なんだ、そういう…って。
「じゃあ、放課後な。授業中寝んなよ」
そう言って御幸先輩も自分の教室へと帰って行った。


ドキドキしていた。
別に、何があったわけでもないのに、
よく分からないけど、残りの授業時間はあの吹奏楽部の部長さんのことで頭がイッパイになってしまった。



                  ◆



一度知ってしまえば、今まで全く知らなかったのがウソだったみたいによく見かけるようになる。
移動教室、外の体育、休み時間…。
こういう風になるのがどういうことか、既視感があった。
少女漫画であったやつだ。
まさか、と思った。
自分がそんな単純に、いや単純っていうか、そんなことになるとか思ってないもんだから。





食堂で、食券を買っていたらポンと背中を叩かれた。
振り返ると吹奏楽部の部長さんが笑顔で立っていた。
「こんにちは」
「あ、えっと」
です、吹奏楽部の部長です!」
「それは、この前御幸先輩から聞いたんで!」
そう言うと、そっか!と笑う。
ビックリした。触られた背中が、驚くほど熱かった。


食券を買って、一緒に並んでいる間、先輩はずっと話しかけてくれた。
「沢村くんは調子はどうですか?」
「俺は、絶好調なんで!早く投げたくてウズウズするっていうか」
「たのもしい!早く試合で投げる姿見たいよ!」
そう言ってまた笑う。
その度にドキドキして、嬉しくなって、落ち着かない。
「御幸がね、甲子園ぜってー行くってずっと言ってるんだよ」
先輩が嬉しそうに話す。
「なんか、キャプテンになって変わったよね、御幸」
先輩の視線の先には、御幸一也と倉持先輩がいて、多分いつものバカな話で盛り上がっているんだろう。
「そうですか?なんか変わりましたか?御幸先輩、相変わらず性格悪いっスよ!スゴイ人だとは思うけど…」
心がザワザワする。
先輩がまた笑って、言った。
「性格悪いけど、良いところもいっぱいあるよね」
そう言って御幸一也を見る目は、とても可愛くキレイで、ドキドキして、少しだけ胸がチクンとした。



                  ◆



さすがの俺でも、気付くって。
好きかもしれない人の、好きな人くらい。

俺はそういうの気付かないんじゃないかって言われたことを思い出した。
そして自分が当て馬男子に全く共感できなかったのも思い出す。


好きな人に好きな人がいるのにどうして好きになるんだろう。


じゃあ、好きかもしれないって思った瞬間に、好きな人が他にいるって気付いてしまった場合はどうしたら良いんだろう?
しかも相手はあの御幸一也だ。
叶いっこないなんて、…思わないけど、あの、先輩の横顔を見ると、全然自信なんて出てきやしない。


自分のベッドに寝転がりながら、枕元に置いてあった少女漫画を手に取る。
パラパラとページをめくれば、当て馬男子の奮闘が目に飛び込んできた。


まさかこんなシーンで励まされるなんて。


どうしたい?
何がしたい?

自分自身に問いかけると、なんだか胸がイッパイになった。


「あ~~~~~~~~~!!!!!」
思わず布団をぎゅうと抱きしめてジタバタしてしまう。

「うるせえ沢村!静かにしろ!!」
2段ベッドの上にいる倉持先輩に怒鳴られて、さーせん!と反射的に謝る。


まだ自分は何もしてないんだ。
はいそうですか、って、今なら引けれるのかな?
多分無理。

やれることやって、やり尽くして、それからどうにかなればいい。




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2015.6.14 (企画「どうする」提出。 お題:問う)

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